パブリック市場とプライベート市場による資金調達需要の分担にはメリットがある。

大規模インフラプロジェクト向けの資金調達において、プライベート・クレジット市場を利用する投資適格企業が増えている。パブリック市場とプライベート市場による資金調達需要の分担には、以下の理由から、明らかなメリットがあるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。

幅広い市場の拡大

今日のプライベート・クレジット市場は過去のそれとは異なる。かつてのプライベート・クレジット市場は、金融の中でもニッチな分野であり、その主な融資先はプライベート・エクイティ(PE)ファンドが保有するリスクの高い企業であった。一方、現在のプライベート・クレジット市場は、勢いのある多様な市場へと成長し、大規模な資産担保融資やカスタマイズ融資ソリューションを投資適格の大企業にも提供している。

カスタマイズされた資金調達の仕組みを必要とする借り手の存在が、市場の成長の一因であり、そうした資金の多くは巨額のインフラ投資に利用されてきた。また、プライベート・クレジット市場は投資家からの需要も高く、個人投資家や負債にマッチした質の高い資産を求める保険会社など、市場の参加者は様々だ。

その結果、パブリック市場に比べて流動性は低いものの、プライベート市場はその深さと広さにおいて、パブリック市場に並ぶ存在となりつつある。そして今日、企業にはより効率的で幅広い資金調達の選択肢があり、パブリックとプライベートのどちらのレンダー(貸し手)を選ぶこともできる中、多くの企業がその両方を利用している(以前の記事『パブリック市場に近づくプライベート市場と流動性の限界』ご参照)。

バランスの取れたAI投資サイクルの実現

企業のそうした行動は理にかなっていると言える。設備投資の負担が大きいセクターや企業にとっては、柔軟な資金調達が特に重要になるためだ。その一例が人工知能(AI)向けのインフラを急速に拡大しているハイパースケーラー企業であり、中でもアマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、そしてオラクルは、常に高い資金調達ニーズを抱えていると言える。S&Pの推定によれば、世界全体で見たAI情報技術への投資額は、今後5年間を通して毎年28~36%のペースで拡大するとされている。

また、AIの普及を支えるデータセンターやエネルギー源に関して言えば、資金調達における「すべての選択肢」を活用した資本形成が必要になるとABは考える。より持続可能でバランスの取れたAI投資サイクルを実現する上では、そうした資金調達方法が有効と考えられるからだ。

メタ・プラットフォームズは2025年初め、2件の大型起債を通じて、合計600億米ドル規模のデータセンター拡張資金を調達した。1件目の起債はメタの関連会社とプライベート・レンダーのジョイントベンチャーによるものであり、プロジェクト建設資金向けの調整が加えられている。債券の発行は私募形式で行われたものの、その売買は投資適格のパブリック市場でも可能というものだ。そしてメタはその後、この1件目の起債を補完し、資金調達基盤のさらなる拡充を図る目的で、300億米ドルの公募投資適格債(Aa3/AA-格)の発行も実施した。

これらのハイパースケーラー企業は、大規模AI学習向けのスーパークラスターとグローバル分散型のAI推論という2つのコア技術を資金面で支えるため、今後数年間にわたり債券を大量に発行すると見られている。なお、前者の技術には多額の初期投資が必要な一方、後者の技術にはより継続的なインフラ投資が求められる。それでも、こうした企業は総じて健全なキャッシュフローと強固なバランスシートを有しており(以前の記事『AIブーム:バブルとチャンスの違い』ご参照)、重要なAIインフラプロジェクトに際しては、パブリック市場でもプライベート市場でも大規模な債券発行が可能であると考えられる。また、ABの分析によれば、こうした企業の大半は、仮に財務レバレッジが大きく上昇したとしても、すぐに格下げリスクに直面することはない。

パブリック・クレジット市場では、投資家が容易に債券を売買できるかどうかが流動性を左右するが、それができるのは様々な発行体の新発債や既発債が安定的に市場に供給されているときだけだ。現状、パブリック市場での債券の発行規模や起債スピード、そして発行年限を見る限り、市場は引き続き活況であり、流動性も安定性も高い状態を維持していると考えられる。

また、パブリック市場で発行される債券の潜在的な魅力はほかにもある。ハイパースケーラー企業のクレジット・スプレッドは既に拡大した水準にあり、それは予想される大量の供給やバランスシートの拡大、さらには投資回収期間の長期化への投資家の懸念を反映したものだ。一方、ハイパースケーラー企業のバランスシートには不安定なAIの普及過程にも耐えられる強さがあり、拡大したクレジット・スプレッドは投資家にとって、安定したインカムを長期にわたり固定するチャンスとも言えるだろう。

異なるニーズに応えるプライベート・クレジットとパブリック・クレジット

プライベート・クレジットはこれからも、パブリック市場が提供できない、あるいは提供しないような資金調達ソリューションを提供する可能性が高く(以前の記事『市場サイクルを踏まえたプライベート・クレジット投資』ご参照)、そうしたソリューションにはより複雑で流動性の低い資産への融資も含まれる。供給に多少の混乱はあるかもしれないが、機関投資家や個人投資家が投資することができるパブリック市場の投資適格債券にとって、プライベート・クレジットへの需要の拡大がもたらす悪影響は小さいとABは考える。

さらに、プライベート・クレジット市場の大部分はこれまでどおり、伝統的な中小企業向けダイレクト・レンディングである。そして、中小企業向け市場の中心は引き続き投資適格未満の企業であり、そうした企業は伝統的なクレジット市場へのアクセスがないか、プライベート・レンダーが最も得意とするようなカスタマイズ・ソリューションを求めている可能性がある。その結果、伝統的な投資家向けの投資適格クレジットについても、十分な供給が保たれることになるだろう。

リスクはあってもパブリック・クレジットの強みは変わらない

プライベート・クレジット市場の拡大がパブリック債券の投資家にリスクをもたらす分野もある。パブリック市場の債券発行体が情報開示の少ないプライベート市場を利用した場合、バランスシート外の債務の分析が難しくなるほか、新たなプライベート・クレジットの存在がバランスシートの複雑化を招く可能性もある。パブリック市場を分析する上で、透明性の低さはそれ自体が不利な要素であり、格付けにとってのリスクになることもある。

一方、こうした構造的な懸念には誇張があるとABは考える。プライベート・レンダーの手元資金は依然として潤沢であり、とりわけハイパースケーラー企業などの主要な借り手の信用力は引き続き高く、投資適格パブリック市場のファンダメンタルズも底堅い(以前の記事『2025 年のクレジット市場見通し:政治情勢の変化にもかかわらず、地盤は堅固』ご参照)。そのため資金調達源の多様化は、AIインフラへの投資サイクルが続く中、データセンター建設に伴うコストやリスクの分散に役立つ可能性があるとABは考える。

プライベート・クレジットへの需要の拡大が、投資適格クレジットの供給に多少の影響を及ぼすことはあるかもしれない。それでもABの見方によれば、投資適格パブリック市場にとって、プライベート市場への資本の流れが大きなリスクになることはない。そうした流れは、資金調達源と投資機会の多様化を反映したものと考える。

結局のところ、パブリック市場の流動性は引き続き、主要な借り手による債券発行の継続と、それがもたらす安定した投資適格パブリック債券の供給に支えられていると言える。そしてその結果、投資家はプライベート・クレジット市場が拡大する中でも、パブリック債券を効率的に取引することができるのである。

投資適格のパブリック市場は今も幅広い借り手や投資家を支える存在であり、その強みはクレジット市場全体の状況が変化しても変わらないとABは見ている。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2025年12月4日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「債券」カテゴリーの最新記事

「債券」カテゴリーでよく読まれている記事

「債券」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。