世界の株式市場は2月に入り大幅に下落し、その傷はまだ癒えていない。しかし、今回のボラティリティ再燃は、異例なほど長期にわたり一本調子で上昇相場が続いてきたことを受け、市場が現実に戻っただけであるかもしれない。むしろ、長期的にはより健全な投資環境をもたらした可能性もある。

ボラティリティがこれほど急激に上昇した(図表1左図)ことを踏まえれば、投資家が不安になるのも無理はない。2月に入って上場投資信託(ETF)の商いが極端な水準に膨らんだ(図表1右図)ことも火に油を注ぐ形となった。だが、最近の市場の変動のスピードや規模は、世界経済のファンダメンタルズや企業業績とは合致していないように見える。なぜなら、経済や企業業績は力強い動きを示しているからだ。

平穏な時期が長期間続いた後、ボラティリティと出来高が急増.png

米国株は一時、1月につけたピークからの下げ幅が調整局面入りの定義とされる10%を超える場面もあった。S&P 500指数は2月9日現在、年初来ベースで1.8%の下落となっている(図表2)。アジアや欧州の株式市場も打撃を受けた。

株価急落により、年初来リターンは若干のマイナスに.png

インフレ懸念とファンダメンタルズの綱引き  

市場の下落は、ある意味広く予想されていたものだった。株式市場は良好な経済環境や企業業績に対する楽観的な見方と、金利上昇への懸念との間で綱引きとなっているようだ。それは、今後もしばらく不安定な市場環境が続きそうなことを意味する。

今回の株価急落の震源地となったのは、2月2日に発表された米国の雇用統計に含まれる賃金データのようだ。賃金の伸びが予想を上回ったことで、インフレが依然として現実的なリスクであることを投資家が改めて認識した結果、2017年9月に始まり2018年1月に加速した債券利回りの上昇に拍車がかかった。以前から多くの投資家は、急ピッチの金利上昇によって株式市場においてバリュエーションの見直しが生じることを懸念していた。

需給も株価急落の一因となった。ボラティリティが急上昇した場合に株式の売却を強いられる「アルゴリズム」に基づく投資戦略も株価下落を増幅した可能性がある。今回の株価急落局面で出来高が最も膨らんだ20本のETFのうち9本は非伝統的なファンドで、ボラティリティが低水準にとどまることや、逆に市場全体が下落することに賭ける極端なポジションを取っていた。今回はほぼすべての銘柄が無差別的に売り込まれ、好調な業績を発表した企業まで株価が下落している。

それでも、マクロ経済環境は依然として良好に推移している。失業率は低く、世界経済は着実な成長を遂げている。米国の税制改革は設備投資や消費支出を促す要因となる見込みだ。

企業決算発表シーズンも好調なスタートを切っている。米企業の半分以上が決算発表を終えた時点で、S&P 500指数構成企業の74%が予想を上回る利益を上げている。米国、欧州、日本の企業は、今のところ平均で約15%の増益を達成している。2017年末以降だけでも、幅広く米企業をカバーするラッセル3000指数の構成銘柄の業績見通しは、6.4%上方修正されている。

コンテクストが重要  

市場が下落している時には、容易に全体像を見失いがちになる。2017年は株式市場が異例なほどの力強さを示した1年だった。先進国の株式市場は、月次ベースでは12カ月すべてで上昇した。これは過去48年なかったことだ。新興国株式市場も12カ月のうち11カ月上昇した。これも過去30年のうち1度しか起きていない。2018年に入っても、1月は投資家のスタンスは強気を維持しており、米国市場に上場しているETFには780億米ドルの資金が流入した。これは月間の流入額としては過去最高である。

米国株は今週まで、100週間にわたって10%以上の下げを経験していない。この安定期間の長さは、1928年以降における平均の3倍以上に達する。そして、ボラティリティも異例なほど低水準で推移してきた。

しかし、こうした株価上昇や市場環境はいつまでも続くものではない。

留意すべきリスク   

このように、いったん調整の入った市場において、今後のリスクはどのようなものだろうか。バリュエーションは長らく懸念の的となってきた。2018年の年初時点で、米国を始め各国市場の株価バリュエーションは過去平均を上回る水準にあった。現在は株価の下落と企業利益の持続的な拡大を受けてS&P 500指数構成銘柄の株価予想収益率は16.5倍に低下し、2016年並みの水準に戻っている(図表3)。

米国株のバリュエーションは大幅に低下.png

また、政策の失敗というリスクも現実味がある。おそらく偶然の一致だろうが、株価が急落した2月5日はジェローム・パウエル氏が米連邦準備制度理事会(FRB)議長として仕事を始めた初日だった。彼は市場の信頼を得るため、インフレに関しリスクを取るゆとりはないと見られ、市場が想定する以上に急ピッチで金利引上げを進める可能性がある。

もし金利が予想よりも急速に上昇すれば、将来の利益に適用される割引率が上昇する一方、企業の借入れコストは徐々に上昇する。債券利回りの上昇も、投資家が株式に対しより高いリスク・プレミアムを要求する結果となる。これは株式のバリュエーションを押し下げる圧力となり得る。

だが、予想されるような金利上昇は市場に根本的な悪影響を及ぼすだろうか? 必ずしもそうとは限らない。過去においては、金利が上昇してもそれが経済成長の改善を反映したものであるならば、株価上昇の妨げとはならなかった。

改善する市場環境、新たな投資機会  

たとえ株式のリターンが低下しても、債券よりも株式の長期的な期待リターンの方が魅力的だという多くの株式投資家の見方に変わりはないだろう。また、ボラティリティが上昇した結果、アクティブ運用マネジャーにとっては超過収益の源泉となり得る市場の歪みが生じており、将来のアウトパフォーマンスにつながる可能性もある。

市場の調整局面に耐えることは決して容易ではない。しかし、株価の下落は好ましい買い場を投資家に提供するというプラスの面もある。目先のボラティリティがもたらす不安感に市場が圧迫されている場面では、長期的な視野を持ち続け、企業のファンダメンタルズから目を離さないことが、市場の乱気流を乗り切り、優れたパフォーマンスを達成するカギになる。

 

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