債券市場にデジタル革命が到来したのは比較的遅かったが、今や市場の光景は大きく変わりつつある。テクノロジーの大きな進歩をいち早く取り入れた投資家はすでに大きな利益を得ている。旧来の取引環境では得られなかったような独自の知見を手に入れられるようになったほか、スピードが超過収益に直結することも多い市場でより迅速に行動することが可能になったからだ。                                                                                                                                                                     

予測分析や自動化、人工知能(AI)、機械学習などは、膨大で複雑なデータを意味のある役立つ情報に変える。債券市場には何百、何千もの銘柄が存在し、しかも取引所での売買が中心の株式市場とは異なり、何兆米ドルにも上る売買の多くが相対取引システムを通じて行われているため、以前からそうした進化が求められていた。

債券投資のデジタル革命に適応できた運用機関は、市場における最も厄介な問題を解決するため、テクノロジーと人間の知性を組み合わせている。以下、その方法を紹介しよう 。

水たまりをプールに   

特定の債券を特定の価格で取引してくれるカウンターパーティを見つける能力は、昔から債券ポートフォリオ・マネジャーのアルファ創出能力に決定的な影響を与えてきた。残念ながら、世界金融危機以降、債券市場の流動性は一段と乏しくなり、しかも一瞬で蒸発しがちになっている。市場の規模が劇的に拡大したにもかかわらず、金融機関に対する自己資本規制などによりディーラーのバランスシートが縮小しており、すぐに取引可能な在庫が希少になっているのだ。

取引の相手方になってくれる業者や投資家が少なくなれば、価格は急激に変動しやすくなり、取引コストも膨らむ可能性がある。小さな出来事でも債券投資家の不安が高まって流動性があっという間に消失する可能性があるため、この問題は特に市場で重要なニュースが飛び出した際に顕著になる。

そして、流動性の状況を監視するのが難しいことが問題をさらに複雑にしている。流動性の供給源は様々な場所に散らばっている。ポートフォリオ・マネジャーがその一つ一つを監視し、データを比較するのは非効率的だ。債券の流動性を効果的に測定できなければ、投資アイデアを取引に結びつけることができず、取引が執行できなければリターンを得ることもできない。

幸いなことに、新たなテクノロジーを取り入れたトレーダーは、複数の流動性供給源を一つのデジタル・プラットフォームにまとめることにより、より迅速かつ容易にカウンターパーティを見つけ出すことができる。それは、次々と新たな情報を直ちに消化してめまぐるしく変化する今日の市場において、極めて重要なイノベーションである。

このようなプラットフォームを取り入れた運用機関は、「プライス・テイカー」ではなく、自らが買いたい価格でビッドし、自らが売りたい価格でオファーを提示する「プライス・メーカー」となることができる。その結果、取引執行能力が高まり、取引コストが低下し、資金がより有効に活用されることになる。

クレジット・リサーチにワンタッチでアクセス

投資家に優れたリターンをもたらすためには、ポートフォリオ・マネジャーはどの債券が市場で購入できるかだけでなく、どの債券がポートフォリオの戦略的目標の達成に貢献し得るかを知る必要がある。

問題は、リサーチ・アナリストやポートフォリオ・マネジャーがそうした分析を行う上で、債券発行体の資本構造や財務の健全性、ガバナンス慣行など、数多くの要因を検討しなければならない点にある。伝統的に、定性的な分析はファンダメンタル・アナリストが行うが、ポートフォリオ・マネジャーはポートフォリオにとって債券が好ましい投資対象かどうかを判断するために、場合によっては何日もかけて様々なリサーチ・チームの間を行き来し、貴重な時間を費やさなくてはならない。

ファンダメンタルな分析を数量化、デジタル化、そして中央集約した運用会社は、評価プロセスをより効率化することができる。そうした会社のクレジット・リサーチや格付けプロセスは、均質性が確保され、アクセスが容易なフレームワークの中に保存されている。このフレームワークを使えば、トレーダーやポートフォリオ・マネジャーはただちに債券のリスクや潜在力に関するアナリストの分析を把握し、迅速に複数の類似債券を比較することができる。

しばしば流動性が一瞬で蒸発してしまう市場環境においては、こうした集約化されたシステムは、対応の遅い運用会社であれば逃しがちな投資機会をも捉えられるようにポートフォリオ・マネジャーが迅速に行動する上で役立つ。

機械化の導入  

優れたポートフォリオを構築しアルファを最大化するためにテクノロジーの進歩を十分活かそうとするならば、運用会社は新たなリサーチや取引プラットフォームの情報などの取り込みを機械化する必要がある。

消費者がアップルの「Siri」やアマゾンの「Alexa」を使っているのと同じように、デジタル・マインドを持った債券ポートフォリオ・マネジャーは膨大な量のデータを検索したり合成したりするために、バーチャル・アシスタントに目を向けている。

バーチャル・アシスタントは、どんなに細心の注意を払ってもキーボードを打ち間違えがちな人間と比べ、注文をより迅速かつ正確に入力することができる。社債トレーダーの80%が依然として電話で注文をやり取りしていることを考えれば、注文の自動入力は思いのほか革新的な進化なのである。

しかも、優れたバーチャル・アシスタントには、もっと多くのことを教え込むことができる。一部のポートフォリオ・マネジャーは、市場環境、リサーチ格付、個別発行体の特性などの基準によるリストをバーチャル・アシスタントに与えることで、数秒後には投資先候補のリストを受け取れるようなシステムを構築している。

そうなると、次なるステップは、事前に定めたリサーチ基準に合致した投資機会を探し出すために、能動的に市場をスキャンし続けることを機械に教えることであろう。それができれば、バーチャル・アシスタントが能動的に投資先候補をポートフォリオ・マネジャーに提案するところまで行くのはそれほど難しいことではない。

バーチャル・アシスタントはポートフォリオを能動的に監視し、人間のミスである可能性を示唆する異常な動きを察知することも習得するだろう。彼らはさらに、特定のクレジットやリスクへのエクスポージャーなどに関する顧客の質問も、簡単なものであれば答えることができるようになる可能性もある。人工知脳や機械学習が進歩すれば、現在の我々ではまだ思いもよらない価値を創出することもできるようになるかもしれない。

重要な決定を下したり、顧客との複雑なやりとりに対応するのは人間の仕事であり続けるだろう。しかし、データ・サイエンスや機械学習のさらなる進歩に支えられた賢いバーチャル・アシスタントは、取引執行を改善し、より多くの売買機会を捉えることを可能にし、独自の分析を行う時間や能力の確保に役立つなど、様々な恩恵を債券ポートフォリオ・マネジャーにもたらすと思われる(以前の記事『債券投資家がフィンテックから受ける7つの恩恵』ご参照)。

債券投資家にとっては、運用を委託するポートフォリオ・マネジャーが債券市場におけるデジタル革命の先頭に立っているのか、それともアナログな現状に甘んじているのかを見極めることは、かつてないほど重要性が高まっている。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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