新興国債券市場は、2018年には厳しい局面となったものの、2019年に入り堅調に推移している。今後もさらなる上昇が期待できるだろうか? アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、期待できると考えている。貿易を巡る米国と中国の間の緊張の高まりを受けてボラティリティが跳ね上がれば、選別的な投資を行う投資家にとっては、投資機会が訪れる可能性がある。

2018年は新興国債券にとって厳しい1年だった。金利上昇や米ドル高に加え、関税引き上げなど世界的に広がった保護主義的な傾向を背景に、幅広く下落した。

その後、当時の主要なリスクの一部は徐々に薄れている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、2019年と2020年は追加利上げを見送り、また利下げも視野に入れていることを示唆している。中国政府が景気刺激策を強化したことから、世界第2位の規模を持つ中国経済が急激に鈍化するとの懸念は後退している。その結果、2019年1-3月期の新興国債券市場は、すべてのセクターが上昇し、特に米ドル建てソブリン債は7%近いリターンを上げた。

しかし、ここにきて米中の貿易戦争が激化しているため、ボラティリティが再び高まっており、こうした状況はしばらく続く可能性がある。ABは依然として両国が合意に達すると予測しているが、交渉が長期化するリスクも高まっている。

朗報もある。現在の新興国債券市場には魅力的な要素がまだまだ沢山あることだ。投資家はボラティリティが高まった局面を、新興国債券へのエクスポージャーを引き上げる機会として利用できる。特に1-3月期の上昇相場に乗り遅れたと懸念している投資家にとっては、割安な価格でエクスポージャーを増やす好機となるかもしれない。

ファンダメンタルズの強さ: 明るい成長見通し

2018年は荒波にもまれたが、新興国は依然として世界経済にとって最も強力な成長エンジンであり、新興国と先進国の成長率格差は拡大している。そして、成長率格差が拡大すれば、先進国から新興国への資金フローが増す傾向がある。米国とユーロ圏の経済が縮小までは行かない範囲で減速するトレンドが続けば、そうした資金フローも続くと予想される。

しかも、新興国はかつてと比べ短期資金の調達に関し海外への依存度が全般的に低下しており、そのため急激な資金流出に対する脆弱性も薄れている。少数の例外を除けば、各国の経常赤字も減少しており、これは多くの国で海外からの直接投資でカバーできる赤字の比率が高まっていることを意味している。直接投資は長期的な性質を持っているため、安定した資金調達源となる。

同時に、大半の新興国ではインフレ率が低く、今後もさらに低下すると予想されている。その結果、各国の中央銀行には、金利を引き下げて成長を刺激する余地が生じる。2018年は、多くの中央銀行が自国通貨を支え、資金流出を食い止めるために、政策の引き締めを強いられた。

企業のファンダメンタルズも力強い。足元の市場の混乱や多くの新興国通貨の急落にもかかわらず、デフォルト率は低水準で推移している。【図表1】は新興国の発行済み債券のデフォルト率を表しているが、2018年は1.6%に低下した。もっとも、JPモルガンは2019年のデフォルト率が3%に上昇すると予想しており、これは選別的な投資が依然として重要であることを示唆している。しかし、それでもデフォルト率は過去の平均水準を下回っている。構成銘柄がより絞り込まれているJPモルガン・エマージング・マーケット社債指数の銘柄のデフォルト率はさらに低く、2018年は1.2%、2019年は1.9%が見込まれている。

【図表1】2018年の市場混乱をよそに、社債のデフォルト率は低水準.png

上昇相場に乗り遅れたという心配は不要

新興国市場の一部では、バリュエーションが引き続き魅力的な水準にあり、今後貿易を巡る懸念から債券価格が下落すれば、さらに魅力が増す可能性がある。それは、2019年に入ってからは様子見を続けていた投資家にもまだ投資機会があることを意味している。【図表2】 が示すように、新興国の現地通貨建て債券の利回りをインフレ調整後の実質ベースで見ると、同様の基準で見て0%近辺で推移している先進国の利回りに比べ、大幅に高い水準にある。

【図表2】新興国の債券は先進国の債券と比べ実質利回りが高い.png

一方、投資家は格付が同等の米国債券よりも、投資適格級の米ドル建て新興国債券(ソブリン債と社債の双方)から、はるかに高い利回りを得ることができる。高水準のインカム収入を求める投資家は、高利回りの新興国ソブリン債の米国ハイイールド社債に対するプレミアムがこれほど高水準になったケースは過去にはほとんどないことに留意すべきである。

多くの新興国通貨も依然として魅力的な水準にある。FRBが年内の追加利上げはないと示唆したことを受けて、長期的に見れば過大評価されている米ドル相場が下落し始めれば、新興国通貨が恩恵を受ける可能性がある。

さらに、需給バランスも引き続き投資家の追い風となっている。2019年は、新興国のソブリン債や社債の純発行額が低水準で推移しているのに対し、新興国債券市場の上昇の恩恵を受けようとする投資家の需要は高まっている。これはパフォーマンスを支える要因となりそうだ。

アクティブなアプローチが不可欠

もちろん、2019年に入って債券価格が大幅かつ急ピッチに上昇してきたことを踏まえれば、高水準のアルファを創出する機会を捉えるためには、投資家は選別的なスタンスで臨まなくてはならない。新興国市場諸国の間には依然として、マクロ経済の安定性、ガバナンス、財政政策などの面で格差がある。

例えば、保守的な財政政策の維持と社会政策への支出拡大という相反する目標の間で綱渡りをしているメキシコ政府の能力については懸念がある。特に、国営石油会社ペメックスのファンダメンタルズが脆弱で、政府の支援が必要になると見られることから、こうした政策スタンスは懸念を要する。

一方、ブラジルについてはもっと楽観視している。ブラジルでは新政権が民営化と年金制度改革という野心的な政策課題を推進し、膨れあがった公的セクターの債務を縮小しようとしている。しかし、政治的な抗争も起きており、こうした計画を実現することがいかに難しいかを物語っている。ブラジル議会は何らかの改革を承認する見込みだが、その中身は希薄化される可能性がある。

ABは、2019年の年初時点では、アルゼンチンに投資する投資家は政治リスクに寛容すぎると考えていた。だが、足元における米ドル建て債券のスプレッド急拡大は行き過ぎだと見ており、投資家にとっては投資機会が生まれていると判断している。経済指標は年初来失望を招く内容が続いているが、10月に行われる大統領選挙では現職のマウリシオ・マクリ氏、あるいは他の中道派候補が勝利を収める可能性が高く、そうなれば市場に好ましい政策が維持されると見られるほか、国際通貨基金(IMF)から多額の融資を受けられる可能性も高まりそうだ。

トルコでは、2018年の通貨リラの大幅な下落などが寄与し、経常収支が赤字から黒字に転じた。しかし、インフレ抑制に関する中央銀行のコミットメントや、政府の不明瞭な経済計画に対する懸念は依然として残っている。イスタンブール市長選の結果を無効とした決定も、不透明感を一段と強める要因となった。当局が市場の信頼感を取り戻すには、まだやるべきことがありそうだ。

他に2019年に投資家にとって障害となり得る問題としては、資産価格の変動を招く可能性のある重要な国政選挙や、ベネズエラやロシアに対する追加制裁の可能性を含む地政学的リスクが挙げられる。

結論として、ファンダメンタルズが強固で適切な政策上の優先課題を掲げている国であっても、投資家は入念なリサーチを行う必要がある。しかし、健全な経済成長や緩和的な金融政策といった世界的なマクロ経済環境は新興国債券の追い風となっており、貿易戦争によって再びボラティリティが上昇する場面があれば、それは選別眼を持つ投資家にとっては魅力的な価格でリスクを積み増す好機となるだろう。

 

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