人工知能(AI)時代の半導体メーカーは、水不足と水の純度をめぐる問題に直面している。
足元のAIブームから利益を得ようと多くの企業が競争し、水の安全保障はAIバリューチェーン上の大きなリスクとなり始めている。データセンターに関するニュースが注目を集める中、半導体の製造は高純度水の安定供給を必要とし、AIバリューチェーンの中でも水使用量が最も多い分野のひとつだ。水リスクの管理は半導体メーカーにとって、戦略的に重要な能力となりつつある(以前の記事『AIの隠れたコスト:水がもたらすリスクと投資機会』ご参照)。
清浄水は半導体の製造に極めて重要
半導体の製造、中でもウエハーの製造工程は、大量の水を必要とする。また、先端半導体の製造には大量の超純水が必要であり、特に干ばつの時期など、そうした超純水を自治体の水道システムから常に直接調達することは難しい。
一方、半導体セクターの市場規模はAIの普及に伴う半導体需要を背景に、2030年には少なくとも1兆米ドルに達すると見られており(図表1)、2030年の予想市場規模はマッキンゼーの最近の分析(英語、外部サイト)によれば1兆6,000億米ドル、バンク・オブ・アメリカによれば2兆7,000億米ドルとなっている。

半導体の製造に関しては、中国、台湾、日本が引き続き世界をリードしているものの、米国内での製造も2022年の「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」成立による国内回帰の加速を受けて、今後拡大していくことが見込まれている。
水ストレスが半導体メーカーに与える影響
製造能力の拡大が続く中、半導体セクターにおける世界全体での取水量は、直近の年間約2,600億ガロンから2030年には約3,900~4,550億ガロン、さらには2030年代半ばには現在の2倍へと増加する勢いだ。実効性のある水使用量の削減策に取り組まない限り、水ストレスを抱えた地域の半導体メーカーは、操業リスクや財務リスクの拡大に直面する可能性がある。半導体の既存製造施設はその約40%が深刻な水ストレスを抱えている、もしくは今後抱えるリスクが高いと考えられる集水域にあることから、これは一刻を争う問題だ。
水需要の大きさは既に圧倒的な水準にある。取水量が最も大きい半導体メーカーには台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、インテルなどがあり、この3社だけでも年間何十億リットルもの取水を行っている(図表2)。エヌビディアは半導体の製造をアウトソースしており、直接的な「ウォーター・フットプリント」、すなわち水使用量ははるかに小さいものの、それでも水をめぐるサプライチェーンリスクにさらされていることに変わりはないとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。

AIの普及加速に伴い、一部の地域では電力需要の増加が水資源への負担増を引き起こし、半導体メーカーが直面している問題をより複雑にする可能性もある。こうした背景から、半導体セクターにおいては、「水スチュワードシップ」と呼ばれる責任ある水資源の管理が、企業間の差別化要因になりつつあるとABでは考えている。
半導体メーカー各社の水リスクへの対応策
水の不足や過剰、汚染過多など水リスクには様々な形があるものの、本質的にはどれも地域的な問題であるため、解決策も地域ごとに異なったものが必要となる。
TSMCは2021年、台湾が過去50年で最も深刻な干ばつに見舞われた際、政府による給水制限という事態に直面した。事業を継続するため、同社は主要製造拠点への水のトラック輸送と併せて、厳格な水の保全管理に取り組んだ。そして今日、同社はアメリカ南西部の乾燥地域における新たな事業の持続的拡大を支えるべく、広さ15エーカーの水再生施設(英語、外部サイト)をアリゾナ州に設けるなど、長期的なレジリエンスの強化に向けた投資を行っている。
一方、サムスン電子は取水量の削減という異なる道を歩んでおり、取水量を2021年並みのレベルに戻すという目標を2030年までに達成しようとしている。この取り組みにおいて最も重要なのが水再利用の拡大であり、生産水の処理とリサイクルを通じて、新たな取水に対する依存度を引き下げていくことである。そのため同社では、韓国の器興(キフン)と華城(ファソン)の両工場において、1日当たり12万メートルトンの水再利用を2029年までに実現することを目標とした実証実験にも取り組んでいる。
エヌビディアの水使用量は比較的少ないように見えるものの、それは同社が「ファブレス経営」(工場を持たないビジネスモデル)を導入し、半導体の製造をTSMCやサムスンなどのパートナー企業にアウトソースしているためである。それでも、潜在的な水リスクはパートナー企業を通して、エヌビディアにも影響を与える。
これらの事例から見えることは、水リスクの管理は単なるコンプライアンス上の対応ではなく、半導体メーカーにとって戦略的に重要な能力になりつつあるという現状だ。
優れた水スチュワードシップとは
それぞれの地域が抱える水の制約に合わせて、事業のプロセスやサプライチェーンを見直すことができる企業こそ、将来的な成長余地が最も大きくなる可能性があるとABは考える。それはつまり、最終的には優れた水スチュワードシップが、長期的な企業業績の向上につながり得るということでもある。
大半の投資家は企業の開示資料をもとに水リスクを評価しようとするものの、開示資料だけで全体像が把握できることはほとんどない。水リスクに対する企業のレジリエンスを評価する上では、開示された指標だけに頼らない、より幅広い判断の枠組みが必要になる。ABが重視しているのは、企業による水再利用システムへの投資状況や淡水取水量の削減状況、有用なパフォーマンス指標の開示状況や地域の利害関係者とのエンゲージメント状況、さらには流域に対する現状理解やそれらを踏まえた資本配分戦略を示す材料である。こうした詳細な分析は、企業が水リスクを効果的に管理し、長期的なレジリエンスを有する体制を構築できているか、投資家が評価をする上で有用だ。
また、アクティブな投資家の立場からは、分析の一環としてのエンゲージメント*が極めて重要であり、こうしたエンゲージメントは、投資家と半導体メーカーの間だけでなく、限られた水資源を共有する企業と地域社会の間においても有意義だとABは考える。投資家はエンゲージメントを通して、水リスクを積極的に管理している企業と、そうではなく過小評価している可能性のある企業を区別することができる。加えて、水のリサイクル目標や再生投資の状況、さらには情報開示への取り組みや拠点ごとの水利用計画について企業と議論をすることで、投資家は将来的な水の制約に対する企業の対応能力に関しても、重要な知見を手に入れることができる。
水の確保と質に関する問題は、半導体の製造、ひいては半導体メーカーの収益性に影響を与える、極めて重要な要素だと言えるだろう。AIの普及に伴う半導体需要が加速を続ける中、投資家は半導体生産の拡大に目を向けるだけではなく、そのために必要な水資源を今後も企業が確保していけるかどうかも併せて見極めることがリターン確保において重要となる。水資源の確保、管理、そして分散を最も効率的に実行し、深刻化する資源問題を競争優位に変えていける企業が、半導体セクターの将来をリードするとABは考えている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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