気候関連リスクが資本市場にどのような影響を及ぼすのか、山火事はひとつの分析事例を示している。

カナダのオンタリオ州北部を襲った深刻な山火事や欧州各地の記録的な猛暑など、異常気象に関するニュースが再び注目を集めている。災害の頻度や激しさは増しており、それに伴うリスクは保険引き受けの限界に達しつつある(以前の記事『自然災害指数3.0:災害予測を投資判断に役立てる』ご参照)。保険システムのひっ迫が気候関連リスクの資本市場への波及にどのように影響するか、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)はコロンビア大学クライメート・スクールの研究パートナーと共同で検証を行った。

この検証では、2025年に米国カリフォルニア州を襲った一連の山火事を対象とした。2025年1月にロサンゼルスで発生したパリセーズ火災とイートン火災は、山火事という自然災害分野では過去最大となる、400億米ドルの損失を保険会社にもたらした(以前の記事『California Wildfires: Municipal Bond Investors Can Make a Difference』(英語)ご参照)。スイス・リー・インスティテュートによれば、この400億米ドルという損失は、すべての自然災害分野における過去の保険損失イベントの中でも、上位10位に入る規模となっている。また時系列で見ると、特にこの10年、大規模自然災害による保険金請求は世界的に急増している。

このような傾向を受け、保険料の引き上げや補償範囲の縮小といった動きに加え、保険契約そのものが更新されないケースや、リスクの高い市場から保険会社が撤退するケースが現れている。こうした問題は保険会社やアセット・オーナーだけでなく、投資家にも影響を与えるものであり、なかでも保険会社や実物資産、あるいは地方債へのエクスポージャーを有する投資家への影響が考えられる。山火事リスクはグローバルな問題である一方、その重要な側面を明らかにする上で、カリフォルニア州の山火事について検証することには意味があると考える。

人間と自然:発火につながる組み合わせ

山火事リスクとそれに伴う保険損失の拡大には、2つの要因が寄与していると考えられる。世界的な気温上昇が降水パターンのさらなる不安定化や雪解けの早期化を引き起こし、山火事シーズンはより長く、破壊的になっている。住宅と山火事多発地域が近接した、「野生地と都市の境界面」(WUI)における住宅開発の増加もまた、山火事リスクにさらされる住宅の数を押し上げている。

米国では山火事による焼失面積が年々顕著に拡大しており、直近の山火事シーズンにおける焼失面積は過去最大の部類に入っている。同時に、山火事リスクの高い地域に近接した住宅の数は1990年代以降大きく増加しており、これは人間の居住地が山火事多発地域にまで拡大したことに加えて、山火事そのものの発生頻度、規模、激しさが増した結果であると言える。こうした変化が相まって、山火事が発生した際にその影響を受ける住宅の数が増え、潜在的な保険損失の拡大につながっている。

保険の観点から見ると、リスクは上昇しており、その評価も難しさを増している。例えば、WUIにある住宅の数が増えるにつれ、山火事多発地域との近さという直接的なリスクだけでなく、住宅から住宅へと火事が広がる延焼リスクについても考慮しなければならなくなる。実際、山火事による物的損害の主な原因は飛び火にあり、保険会社各社は民間のデータ提供事業者と共同でリスク評価手法の向上に取り組んでいるものの、こうしたリサーチには費用がかかり、保険コストの上昇要因ともなっている。

実際に、カリフォルニア州では保険会社の多くが2025年の山火事以前から、山火事多発地域における保険料を引き上げたり、該当する地域から撤退したりする動きを見せてきた(図表1)。

こうした保険会社の行動がもたらす社会的・経済的コストは極めて大きい。大半の住宅購入者が必要とする住宅ローンは住宅保険なしでは組むことができず、住宅の取得制限や、住宅の資産価値へのネガティブな影響につながる可能性がある。また、住宅保険にまったく入っていない、あるいは入っていても補償額が十分ではない世帯では、山火事の後に住宅を建て直す資金も不足することになり、こうした世帯の数が増えるほど、災害復興期に州や地方自治体が提供する必要のある仮設住宅の数や社会福祉サービスの規模が大きくなることを意味している。さらに、住宅価値の低下は固定資産税の減収要因となり、山火事後の復興費用の増加と合わせ、一部の地方債への格下げ圧力につながるリスクもある(以前の記事『Assessing the Potential Impact of California’s Wildfires on Municipal Bonds』(英語)ご参照)。

保険不足の解消に取り組む米国の各州

民間の保険に加入することができない住宅所有者への対応として、米国の多くの州では、「FAIR(Fair Access to Insurance Requirements)プラン」と呼ばれる州営の火災保険制度が導入されている。各州の保険会社は同プランの下でリスクを共有するための基金に資金を拠出し、仮に大災害による保険金請求が基金の規模を上回った場合には、各保険会社の市場シェアに比例した負担金がそれぞれに課される仕組みだ。

一方、FAIRプランにも限界はある。同プランは民間の補償プランよりも割安ではあるものの、その対象となる危険の範囲は狭く、請求額に対する保険金の支払率も低い。また、この制度に基づく資金調達モデルは悪循環に陥りやすいことも指摘されている。山火事リスクの上昇に伴い保険料が引き上げられると、FAIRプランへの加入需要が増え、それによる運営コスト負担の増加はさらなる保険料上昇を引き起こすからだ。

苦しい状況は契約者も保険会社も同じであり、例えばカリフォルニア州では、一部の保険会社が同州から撤退したことで、FAIRプランの負担を担う保険会社の数が減少する事態となっている(図表2)。

2025年の山火事発生当時、カリフォルニア州FAIRプランの基金規模はわずか3億7,700万米ドルであり、山火事による損害はそれを大きく上回る規模となった。カリフォルニア州政府は10億米ドルの負担金の賦課を直ちに承認し、保険会社は保険料の引き上げを通じてその負担を契約者に転嫁した。このようにFAIRプランは一時的な救済となり得る一方で、持続的な解決策とはなりにくく、実際、いくつかの州では住宅所有者をFAIRプランから離脱させ、改めて民間保険に加入させ始めている。

補償モデルの再考

リスクの高い地域において伝統的な保険商品を提供することが難しくなる中、研究の対象は提供可能な代替商品へと移っている(HEADWATERS ECONOMICSのレポート(英語)ご参照)。

そのひとつが「パラメトリック保険」と呼ばれるもので、農家の間では既に広く利用され始めている。パラメトリック保険は損害保険とは異なり、財産の損失や損害ではなく、事前に決められた状況の発生が保険の支払い条件となっている。例えば農業保険であれば、洪水や作物の損失につながる可能性のある、一定量の降水の発生を保険の支払い条件とするケースもある。

損害保険よりも保険料が安く、保険金の支払いも迅速である一方、パラメトリック保険にはリスクもある。例えば、保険の支払い条件を満たすほど厳しい天候ではないものの、それでも天候状況が作物に被害を与える可能性はある。パラメトリック保険の山火事補償への応用については、まだ広く検証されているわけではないが、損害保険にパラメトリック保険を上乗せすることで、リスクに対する備えを強化することはできるかもしれないとABは考えている。

現在議論されているもうひとつのアプローチは、地域ベースの保険(ミネソタ大学のレポート(英語)ご参照)、すなわち個々の住宅所有者ではなく、特定の住宅所有者グループに対して補償を提供するような保険である。そうした保険を支持する立場の考え方によれば、地域ベースの保険は、地域社会によるレジリエンス対策の調整と、リスクにより見合った保険料の設定に役立つ可能性があるとされている。ただし、規制上の障壁は依然として高く、地域ベースの保険の活用は、多くの州で制限された状況にある。

住宅そのものの防火対策は、より直接的なリスク抑制手段となる。住宅所有者は自己の物件について、山火事に対するぜい弱性を軽減するような対策を講じ、その対策内容を専門家に保証させた上で、保険会社に証明書を提出することができる。その結果、保険料の引き下げや一旦拒否された保険への加入が認められるケースもあり、常にそうした成果が保証されるわけではないものの、住宅の安全性向上につながる可能性があると言えるだろう。

保険リスクの理解が極めて重要

保険市場のどこに綻びがあり、代替的なリスク移転メカニズムが生まれる可能性があるか、そして政策対応がどのように変化していくか、投資家はよく理解しておく必要があるとABは考える。これらの動きを理解することが、保険会社や実物資産のほか、住宅ローン・ポートフォリオや地方債、さらには保険リスク戦略へのエクスポージャーを管理する上での鍵となるだろう。

ABの分析によれば、異常気象はもはや特定地域に限られた保険引き受け上の問題ではなく、クレジット・リスクや資産の評価、さらには地方財政や長期的な保険引き受けの持続可能性にも影響する、重要な問題となってきている。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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