信用リスク移転(CRT)証券は、住宅ローンのデフォルト・リスクを納税者から民間投資家に移転することによって、米国の不動産担保証券(MBS)市場をより健全なものにしてきた。そのことは、足元でトランプ米大統領が行おうとしている住宅金融市場改革によっても変わることはないだろう。
 
米国の政府系住宅金融機関(GSE)である連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は、金融機関から買い入れた住宅ローンを担保に、自らが元利金払いの保証を付した「エージェンシー債」を発行している。そして、両GSEが原資産である住宅ローンのデフォルト・リスクを民間投資家に移転するために発行しているのがCRT証券である。
 
トランプ大統領は最近、米財務省に対し2008年のリーマンショック後に始まったファニーメイとフレディマックの政府管理を打ち切り、今後数年以内に民営化することも視野に入れた住宅金融改革案の策定を指示した。
 
現時点ではまだ、単に計画を策定するための計画に過ぎない。それでも、一部の投資家は、民営化によってファニーメイとフレディマックが発行する債券のクーポンと元本に対する政府保証が終了するのではないかと懸念している。そうなれば、既存の不動産担保証券の価格は下落し、市場の流動性も損なわれる可能性がある。また、市場には、CRT証券の将来を疑問視する声もある。
 
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ではそのようには考えていない。ホワイトハウスや議会における住宅金融改革推進派が達成しようとしている大きな目的のひとつである「納税者を損失から守る」ことは、まさにCRT証券が現在果たしている役割であるからだ。
 

リスクを移転し、投資機会を創出

ファニーメイとフレディマックは、2013年にCRT証券の発行を開始した。従来からのエージェンシー債と同様、CRTは何千件もの住宅ローンをプールして証券化したもので、投資家は原資産となるローンのパフォーマンスに基づき、定期的なインカムを受け取る。しかし、大きな違いもある。CRT証券には元本とクーポンの支払いについて政府保証が付いていないことだ。つまり、多数のローンがデフォルトに陥った場合、損失はこれらの証券を保有する民間投資家が吸収することになる。
 
ファニーメイとフレディマックの資本構成に民間資本の階層を設けることで、これらの証券は市場を強化するとともに米国の納税者に損失負担が及ばないようにしてきた。同時に、利回りが相対的に高く、変動金利であることから、投資家にとっても金利上昇局面で資産保全効果が得られるとして、人気を博してきた。
 
GSEが保証する約5.5兆米ドルの不動産担保証券のうち、約1.4兆米ドルがCRT証券と結びついている。既存の住宅ローンの借り換えや償還が進むにつれ、GSEから民間セクターへのリスク移転も増え、CRT証券市場はさらに拡大することが予想される。
 
GSEが最終的に政府管理から外れれば、こうした状況は変わるだろうか。ABでは変わらないと見ている。政府管理を解除するためには、まずGSEの自己資本が強化されなければならない。これは、数カ月ではなく数年かかるプロセスであるし、また両GSEの自己資本強化のプロセスの中でCRTが重要な役割を果たすこともほぼ確実である。
 

住宅市場への政府の関与

ABではまた、政府が住宅ローン市場から完全に手を引くとは考えていない。住宅市場の動向は米国経済の健全性にとって極めて重要であり、危機の際に政府が目を背けることは想像し難い。ABでは、住宅金融における政府の役割を縮小することには賛成だが、完全に排除することには同意しかねる(以前の記事『Why the US Government Should Guarantee Your Mortgages』(英語)ご参照)。
 
さらに、ファニーメイとフレディマックが発行するエージェンシー債は、世界で最大かつ最も流動性の高い債券市場のひとつで、世界中の投資家が5兆米ドルを超える住宅ローン資金を提供している。これは、住宅購入者への資金供給を維持することに役立ち、また固定金利での借り入れや借り換えを容易にする。政府の関与がなくなれば、エージェンシー債の買い手の多くは消える可能性が高く、それは住宅市場にとって破壊的な影響を与え得る。ほぼ確実に住宅販売は減少し、住宅価格も下がるだろう。
 
ファニーメイやフレディマックは、民間企業になったとしても政府の規制対象となると考えられ、発行する証券には何らかの保証が付く可能性が高い。このシステムでは、CRTは、引き続き民間投資家にリスクを分散する重要な手段となり、政府保証が発動される前に納税者を保護する資本クッションを提供する。さらに、議会でもCRTの活用は与野党双方で幅広く支持を集めると見られる。
 

改革は一夜にしては実現しない

政府には多くの改革の選択肢があるが、最終的には市場の期待に沿った案が実行され、現在のシステムの中で機能している部分は維持されることになるだろう。当局はエージェンシー債の明示的な政府保証を延長するために議会と交渉すると思われる。
 
これにより、住宅購入者に最も人気があり、不動産担保証券市場を支える礎でもある30年固定金利住宅ローンは、引き続き提供可能になるだろう。また、受け渡しの対象となるローンのプールを特定せずに行う「TBA取引」も引き続き可能になる。投資家はデュレーション・リスクとデフォルト・リスクの両方を負うことには躊躇する可能性があるため、このようなローンや取引はいずれも政府保証なしには存続が危ぶまれる。
 
2018年後半のブルームバーグとのインタビューで、スティーブン・ムニューシン米財務長官は、「総論として、私は消費者が流動性や資本に確実にアクセスできるようにしたいと思う一方で、GSEの改革においては納税者を危険にさらさないようにしなければならないと考えている」と述べた。
 
全くそのとおりである。政府保証が発動される前に大きな民間資本によるクッションが働くCRTのシステムは、まさに長官の挙げた両方の目的を達成するものであると言える。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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