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マイナス金利が年金運営に与える影響 第1回:退職給付債務に与える影響

 

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後藤 順一郎
 
アライアンス・バーンスタイン株式会社
AB未来総研 主任研究員



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2016年4月20日

 

2016年1月29日に日本銀行がマイナス金利政策を導入したことで、それが年金運用、中でも債券運用についてどのような影響があるのか、懸念を持つ企業年金は多いのではないだろうか。そこで当レポートでは、マイナス金利が年金運営の全般に与える影響について、いくつかの観点から整理した。
 
まず、日本よりも少し前からマイナス金利を経験している欧州の企業年金でどのような反応があるのか確認してみよう。結論から言うと欧州、特にスイスを中心として相当ネガティブな見方が出ているようだ。「確定拠出年金(DC)を導入しておけばよかった」、「10年続いたら、確定給付企業年金(DB)は破たんするだろう」、「予定利率や給付利率を下げてきたが、それでも間に合わなかった」、といったようなものが多い*。
 
*出所:「Investment & Pension Europe」誌
 
だが実は、欧州よりも日本のマイナス金利の方が年金運営には影響が大きいと思われる。なぜならば、日本は年金債務の計算に用いられる割引率が世界で初めてマイナスになった国だからだ。国際財務報告基準、いわゆる「IFRS」では、年金債務は社債利回りで割り引くことになっているが、欧州各国の社債利回りはマイナス金利になっておらず、マイナス金利で年金債務を割り引くという問題は生じていない。一方、日本の会計基準では社債利回りのみならず国債利回りの使用も認められており、国債の利回りで割り引いている企業も多い。
 
そして、次ページの図表1のとおり2016年3月31日時点では、日本国債のイールドカーブは期間12年までマイナス金利になったため、日本ではマイナスの割引率を債務計算に使わなくてはならないという問題が世界で初めて起こってしまったのだ。
 
 
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このような環境を踏まえ、当レポートでは、①退職給付債務、②年金ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)、そして③円債代替の3つの観点から、企業年金がどのような点に注意を払うべきなのか、3回に分けて網羅的に点検していくことにする。第1回となる今回は、退職給付債務の観点からどのような影響がでるのか見ていくことにする。

 
割引率低下の影響は大きい
 
先日、日本の企業会計基準委員会は、割引率について2016年3月期決算では「マイナス利回り」と「下限0%」のどちらを適用してもよい、との結論を出した。恐らくは結論を出すには十分な時間がなかったことから、今年度決算については、両論OKとしたのが実態だろう。ただ、ここで思い出していただきたいたいのは、債務の計算において大事なのは割引率の「変化幅」であり、「マイナス利回り」と「下限0%」のどちらが適用されても、割引率が大きく下がった2015年度は負債が増える可能性が高い。
 
では、どの程度増えるのだろうか? それを求める際の前提として、2015年3月期の割引率を確認してみた。東証一部上場企業のデータを集計したところ、図表2に記載のとおり、過去10年間、国債の利回り低下に伴って割引率も徐々に低下し、2015年3月期では平均で約1%となっている。また、2015年3月期の割引率の分布を示した図表3をみると、3分の2くらいの企業が1%以下、残り3分の1がそれより高い割引率を使っていることが見て取れる。なお、この3分の1の企業が高い割引率を使っている点はのちの議論で大事なポイントとなる。
 
 
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これらの情報に基づき、2015年3月期の割引率が平均水準の1%とした場合に、現在の金利水準を適用したら、2016年3月期の「退職給付に係る負債」がどの程度増えるのかを試算してみた。なお、ここでは東証一部全体を1つの企業と捉えて年金債務の状況を推計している。

 まず図表4を見ていただきたい。これは2015年3月期の東証一部全体の状況だ(年金情報のデータに基づく)。退職給付債務が65兆円に対して年金資産が49兆円であり、差額の約15兆円が「退職給付に係る負債」として企業のバランスシートに計上されていることになる。
 
 
 
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ここで年金債務のデュレーションを15年とし、2016年3月末時点の15年の利回りである0.2%を用いて退職給付債務を計算するとどうなるのか。つまり、割引率が1%から0.2%まで約0.8%下がったとして試算したところ、約13%退職給付債務が増え73兆円となった。一方、2015年度は資産運用も厳しい状況なため、2016年2月末までの企業年金の実績(年金情報のデータに基づく)で計算すると年金資産は47兆円に減少する。したがって、差である「退職給付に係る負債」は、15兆円から26兆円となる。つまり、1.7倍に増えてしまうのだ。IFRSへのコンバージェンスが完了した現在の会計基準では、遅延認識ができないため、この負債の増分は資本の減少として一括して母体企業のバランスシートで認識しなければならない。2015年度は金利低下と運用環境の悪化が同時に起こっているため、企業財務には大きなインパクトがあることが認識できたと思う。

 
「重要性基準」の影響
 
このように「退職給付に係る負債」の増加による資本の毀損が想定される一方で、実はこの負債の増分を今期の決算で認識しなくても良い可能性もあるのだ。なぜならば、日本の会計基準には「重要性基準」があり、割引率を洗い替えた結果10%以上退職給付債務が増えなければ、前期末の割引率をそのまま使うことができるからだ。したがって、2015年3月期に割引率の見直しを実施し、既に1%以下まで下げているような場合には、割引率の更なる低下の影響は今期には出ない可能性もあるだろう。
 
逆に、2015年3月期に見直していない場合(恐らく、図表3の1%より大きな割引率を適用している3分の1の企業)、割引率の低下幅がより大きなものになり、負債増も大きくなる可能性がある。ここでは、そのような企業にとって負債増がどのくらいのインパクトがあるのかを試算してみた。
 
ここでは仮に2015年3月期の割引率が1.5%だったとして、先ほどの例と同様、今期にそれが0.2%まで低下するとした場合を試算してみたが、結果は衝撃的で、退職給付債務が2割以上増加し、母体企業のバランスシートに計上する「退職給付に係る負債」も大きく膨れ上がった(次ページの図表5)。なんと2015年3月期の15兆円から31兆円と2倍以上になった。繰り返しになるが、この16兆円部分は、資本で即時認識しなくてはならず、16兆円の資本の減少になる。このように、2015年3月期に割引率を見直しているか、いないかで明暗が分かれる可能性があるのだ。
 
 
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忘れてはならない退職給付信託

また、年金の企業財務での影響を考える上で忘れてはならないのが、退職給付信託だ。退職給付信託は持ち合い株式解消の文脈で設定されたものが多く個別株式で設定されることが多いため、国内株式市場が軟調だった2015年度は相当程度のマイナスが発生していると思われる。ここでは、退職給付信託を全てTOPIXで運用していると仮定し、退職給付信託の実績も考慮すると、最終的な負債がどのようになるのかを試算してみた。
 
図表6は、退職給付信託の全年金資産に占める比率ごとに、「退職給付に係る負債」を示している。当たり前だが、国内株式市場が厳しかった2015年度は、退職給付信託の割合が多い企業ほど退職給付信託まで含めた全年金資産のリターンは低下し会計上の年金資産が減少するため、結果として「退職給付に係る負債」は増えることが確認できる。
 
もちろん、退職給付信託は個別銘柄で運用されていることが多く、TOPIXでは適切に表現できていない可能性はあるが、企業年金対比で多額の退職給付信託を設定している企業は、企業年金だけを見ているよりももっと厳しい状況となる点は注意が必要だろう。
 
 

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確定給付は優良企業でないと維持ができない時代に
 
ここまでマイナス金利が退職給付債務に与える影響を見てきたが、ここから見えてくることは、確定給付企業年金は、もはや自己資本の厚い優良企業でないと維持することが難しいという現実だ。折しも現在、確定拠出年金の法改正が国会で審議中だ。この法案が採択されれば確定拠出年金の使い勝手が多少向上することになる。そのようなタイミングで確定給付企業年金から確定拠出年金への移行を考える企業も増えてくるのではないか。
 
次回は、マイナス金利が年金ALMに与える影響について解説する。(第2回に続く)
 

 

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